
正義の味方のヒーローが、必ずしも魅力的とは限らない。
心に闇を持ち、野望を実現しながらやがて破滅へとひた走る・・・その危うさゆえにひときわ輝きを放ち、私たちを惹きつけてやまない悪の華・・・「太陽がいっぱい」のトム・リプリーしかり、「白い巨塔」の財前五郎しかり、リチャード三世しかり・・・そして、
ライ。
いつとも知れぬ昔、どことも知れぬ森に迷い込んだ一人の男 ライ(市川染五郎)に朧の森の3人の魔物が“命と引き換えに”王の座を手に入れるという契約をもちかける。「この剣はおまえの舌」と魔物から授けられたオボロの剣1本を手に、舌先三寸で謀略知略を駆使し、裏切りと憎悪、流血の果てに王の位に上りつめるライ。そしてその先に待っていたものは・・・。
劇団☆新感線 「朧の森に棲む鬼」
1月20日(土) 5:30pm 新橋演舞場いのうえ歌舞伎らしいケレン味たっぷりの演出、大掛かりな舞台装置、彩り鮮やかな衣装、大音量の音響、美しい照明、「好きも憎むも同じこと」など心に残るセリフもたくさん、そして熱演の役者陣・・・どれを取っても一級品のエンターテインメントです。
『朧の森に棲む鬼』は市川染五郎に悪役をやらせてみたいという、いのうえひでのりの発想から出発した作品。つまり台本はあて書きです。その期待に応えて余りある
ライ=市川染五郎の魅力と力量を存分に見せつける舞台となっています。カッコイイ、クール、色っぽい、動きがキレイ、殺陣上手い・・・私の貧困なボキャブラリーでは表現しきれません。時を経るに従って、服装が綺麗になり、カッコよくなっていく外見とは裏腹に、表情からは人間らしさが消えて行き、目には妖しく冷たい光が宿ります。メイクを変え、所作を変え、声色まで変えた細心にして大胆な演技。落武者狩りに囲まれてのラストシーン、あのイッちゃったような目と断末魔の叫び・・・夢に見そうです。
あて書きのもう一人の大ヒットは
阿部サダヲのキンタ。人が好くてかわいいボケキャラのままでは終わらないもうけ役で、身体能力の高さを存分に発揮しているのはもちろん、どんなに早口でもはっきり聞き取れるセリフまわし、グループ魂ボーカルの片鱗もちょっぴり披露してくれています。前半と後半では表情も動きもまるで別人が演じているかのような振り幅広い演技力は圧巻で、あんな役を見てみたい、こんな役はどうかな、と限りない可能性を感じました。
古田新太のマダレ。出番もセリフも殺陣も少なめ・・なのにすっごい存在感。登場の仕方もふるちんらしくて好き。ああいうのをほんとの“エロカッコイイ”って言うんじゃない?目や顔の表情で細かいお芝居を沢山して笑わせたり怖がらせたりしてくれます。舞台上に古田新太がいるとついつい目で追ってしまうのは、ふるちん贔屓の私ばかりではないはず。殺陣は相変わらずキレ味鋭くカッコよくて強そう。欲を言うなら、ご本人もプログラムのインタビューでおっしゃっていますが、市川染五郎と最初から対立して火花を散らす役どころで観たかったな。「吉原御免状」の松永誠一郎に対する柳生義仙のように。

女優陣。
秋山菜津子のツナ。カッコイイ。現代で言うなら闘う勝ち組キャリアウーマンですね。スタイルよくて立ち姿が美しく、衣装もどれもよくお似合い。元々色っぽくて美しい人なので、検非違使長官でいる面より、女に戻ってライへの気持ちと心の中に芽生えた疑念との間で悩むところに一日の長ありといった感じです。
真木よう子のシュテン。初見なのですが、表情の少ない、凛とした美しさと、演技なのか天然なのか、抑揚のない一本調子の硬いセリフ回しが却ってこの役にはピタリとハマって印象的でした。
そして
高田聖子のシキブ。もう、聖子さんワールド炸裂、思うツボっていう感じですね。ひとたび舞台に登場するとあっさりその場を持っていってしまいます。「ツマって知ってる?・・・」っていう独白の場面なんて、独壇場です。
シュテンが血人形を取り出した時、キンタが犠牲になると知っていて、「まずは目でもやってみるか」と、さり気なくとどめを刺すことを制するライ。そのわずかばかりの“人間らしさ”が後々の破滅へのメタファーともなっている訳ですが、それはライの心の弱さであると同時に、ライを完膚なきまでの悪人に仕立て上げることへの作者(中島かずき/いのうえひでのり)の躊躇がそこにあるようにも感じて、些か心に残っています。これは回数を重ねて観れば理解が深まり、別の感じ方ができるようになるのかもしれませんが。
大阪でもまだまだ観るよ〜のごくらく度

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