五月演舞場のもうひとつのお目当ては、市川染五郎が初役で挑む
『鳴神』。
歌舞伎十八番のひとつに数えられるこの演目は、染五郎の祖父の松本白鸚(初代の鬼平さんね)、その弟の二代目尾上松緑の当たり役でもあったそうです。制作発表の記者会見で、
「今回序幕の『鳴神』で、歌舞伎十八番の演目を芯のお役として初めてやらせていただきます。十八番を勤めるのはある意味で義務、出来なきゃいけない立場です。初めてだからということを抜きにした評価をしていただけるように、吉右衛門の叔父に教えていただき、これを始まりとして、どんどんやっていきたいと思っています。」と語っていた染五郎。
出来なきゃいけない立場−初役は誰もが通る道とはいえ、すでに花形役者であるが故、高麗屋の御曹司であるが故の失敗できないプレッシャーはいかばかりかと、その覚悟の程を思いやり、この言葉を聞いただけでもすでに涙出そうになりました。
白い衣装に白塗りの鳴神上人はとても品よく美しい。目じりと唇の赤が効いていて、何とも言えない艶がある。これまで観たどの鳴神よりも若々しくて、雲の絶間姫の話を「ふん、ふん」ってカンジで頬杖ついて聴く姿なんて、かわいらし過ぎて見とれちゃいます。朝廷に恨みを持ち、竜神を滝壺に閉じ込めて雨を降らせないようにするという秘法を操る上人とはちょっぴりイメージ違うケド。女も知らず、奈良漬もキライなくらいお酒も飲めない堅物には見えないケド。
絶間姫に騙されたと知った後の荒事は、すごい迫力でした。もちろん隈取や衣装の効果もありますが、全身に憤怒が漲っていて、ひと回りもふた回りも大きく見えました。元より体のキレがよく所作の美しい人なので、数々の見得がピタリピタリと決まって錦絵を見るよう。花道手前で両手を広げて仁王立ち、七三の位置で見得を切り、躍動感溢れる飛び六方での引っ込みは、思わず「もう1回見た〜い!!」。
夜の部
『隅田川続俤 法界坊』ではそれはそれは美しい野分姫。お芝居観る前から舞台写真ひと目見るなり、「73番!73番!」(笑)と赤い着物もあでやかな野分姫の写真を購入。女形のお声が苦しそうなのは残念ですが、儚げで女らしくて、中村錦之助の要助/松若丸とのバランスもぴったり。ひとつ傘に入る二人は夢見るように美しいカップルで、「私もそっちの傘に入るぅ」とおくみちゃん(中村芝雀)が嫉妬するのも無理からぬこと。
恨みを残して非業の死を遂げた野分姫の霊に法界坊が合体霊となって現われる
『浄瑠璃 双面水照月』がまた凄くて、野分姫と法界坊が交互に顔を出し、声や顔つきはもちろん、体の線というか、肩がなで肩になったりいかり肩になったり、と変幻自在。野分姫のやさしい顔から法界坊の憎憎しい顔への変化はまだしも、その逆、恐い顔から瞬時にやさしく穏やかな美しい顔に戻る変化にはホレボレ。これを観ていて、「染ちゃんなら『ジキルとハイド』できるかも?」と少し思っちゃいました。

次なる挑戦は、
『勧進帳』の弁慶でしょうか。
まもなく上演1,000回を迎えるという偉大なお父上の存在のためか、「高
麗屋の家系では『最遅』」と自らの弁慶未経験を先日の“双面トークショー”でも話していらしたそうですが、家の芸を受け継ぎ、使命感を持って伝統を背負い、自らを奮い立たせて精進を重ね、市川染五郎はどこまで挑み続けるのでしょう。
こちらは4月30日 舞台稽古の合間に会見した法界坊と野分姫
on Daily Sport onlineあれも見たい、この役も観たいのごくらく度

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