2007年05月23日

挑み続ける染五郎

五月演舞場のもうひとつのお目当ては、市川染五郎が初役で挑む『鳴神』

歌舞伎十八番のひとつに数えられるこの演目は、染五郎の祖父の松本白鸚(初代の鬼平さんね)、その弟の二代目尾上松緑の当たり役でもあったそうです。制作発表の記者会見で、「今回序幕の『鳴神』で、歌舞伎十八番の演目を芯のお役として初めてやらせていただきます。十八番を勤めるのはある意味で義務、出来なきゃいけない立場です。初めてだからということを抜きにした評価をしていただけるように、吉右衛門の叔父に教えていただき、これを始まりとして、どんどんやっていきたいと思っています。」と語っていた染五郎。

出来なきゃいけない立場−初役は誰もが通る道とはいえ、すでに花形役者であるが故、高麗屋の御曹司であるが故の失敗できないプレッシャーはいかばかりかと、その覚悟の程を思いやり、この言葉を聞いただけでもすでに涙出そうになりました。

白い衣装に白塗りの鳴神上人はとても品よく美しい。目じりと唇の赤が効いていて、何とも言えない艶がある。これまで観たどの鳴神よりも若々しくて、雲の絶間姫の話を「ふん、ふん」ってカンジで頬杖ついて聴く姿なんて、かわいらし過ぎて見とれちゃいます。朝廷に恨みを持ち、竜神を滝壺に閉じ込めて雨を降らせないようにするという秘法を操る上人とはちょっぴりイメージ違うケド。女も知らず、奈良漬もキライなくらいお酒も飲めない堅物には見えないケド。

絶間姫に騙されたと知った後の荒事は、すごい迫力でした。もちろん隈取や衣装の効果もありますが、全身に憤怒が漲っていて、ひと回りもふた回りも大きく見えました。元より体のキレがよく所作の美しい人なので、数々の見得がピタリピタリと決まって錦絵を見るよう。花道手前で両手を広げて仁王立ち、七三の位置で見得を切り、躍動感溢れる飛び六方での引っ込みは、思わず「もう1回見た〜い!!」。

夜の部 『隅田川続俤 法界坊』ではそれはそれは美しい野分姫。お芝居観る前から舞台写真ひと目見るなり、「73番!73番!」(笑)と赤い着物もあでやかな野分姫の写真を購入。女形のお声が苦しそうなのは残念ですが、儚げで女らしくて、中村錦之助の要助/松若丸とのバランスもぴったり。ひとつ傘に入る二人は夢見るように美しいカップルで、「私もそっちの傘に入るぅ」とおくみちゃん(中村芝雀)が嫉妬するのも無理からぬこと。

恨みを残して非業の死を遂げた野分姫の霊に法界坊が合体霊となって現われる『浄瑠璃 双面水照月』がまた凄くて、野分姫と法界坊が交互に顔を出し、声や顔つきはもちろん、体の線というか、肩がなで肩になったりいかり肩になったり、と変幻自在。野分姫のやさしい顔から法界坊の憎憎しい顔への変化はまだしも、その逆、恐い顔から瞬時にやさしく穏やかな美しい顔に戻る変化にはホレボレ。これを観ていて、「染ちゃんなら『ジキルとハイド』できるかも?」と少し思っちゃいました。

hokai.jpg次なる挑戦は、『勧進帳』の弁慶でしょうか。
まもなく上演1,000回を迎えるという偉大なお父上の存在のためか、「高
麗屋の家系では『最遅』」と自らの弁慶未経験を先日の“双面トークショー”でも話していらしたそうですが、家の芸を受け継ぎ、使命感を持って伝統を背負い、自らを奮い立たせて精進を重ね、市川染五郎はどこまで挑み続けるのでしょう。

こちらは4月30日 舞台稽古の合間に会見した法界坊と野分姫
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あれも見たい、この役も観たいのごくらく度 わーい(嬉しい顔) (total 211 わーい(嬉しい顔) vs 213 ふらふら)
ニックネーム スキップ at 23:20| Comment(12) | TrackBack(1) | 歌舞伎・伝統芸能
この記事へのコメント
スキップさん、染ちゃんの観劇記をありがとうございます。「鳴神」の染ちゃんが眼に浮かぶようです。が、実際に見ないことには、ね。

私が前に歌舞伎座で観た「双面」では、吉右衛門さんが法界坊と野分姫を演じられましたが、すっぽんから現れた野分姫を後の席の男性が大声で笑うではありませんか。振り向くと、テレビでよく見る弁護士。嫁さんに連れられての観劇でした。それ以来、「双面」というと、そのことを思い出してしまいます。^^;

>「染ちゃんなら『ジキルとハイド』できるかも?」

私は一條大蔵譚は?とふと思いました。いずれやるでしょうけどね。

跡継ぎのいない播磨屋ですから、ここ数年、染ちゃんとの共演が増えていて嬉しいかぎりです。高麗屋と播磨屋の芸を継がなきゃいけない染ちゃんは大変だけど、やりがいがあると思います。けど、関西で共演してくれないとねえ。
Posted by おまさぼう at 2007年05月24日 02:46
またまたお邪魔します。
朝しかPCを開けないので、開いたとたん・・・。
きゃ〜〜・・ドキドキ読ませていただきました♪
『鳴神』お目当てで、東京くんだりまでお出かけし
観た甲斐があった今回の染ちゃん!
スキップさまのブログは帰宅後、関西で見つけた
オアシスでございます・・・♪♪
観て読んで・・再び感激して・・。しかも朝から・・。
今日は一日、足が地につかん(笑)
>「染ちゃんなら『ジキルとハイド』できるかも?」
・・って、私も梅芸で思いましたっ!
・・・が、あれはミュ〜ジカルだっ!彼は歌えるのか?・・・(笑)どうなんでしょ?
Posted by かずりん at 2007年05月24日 09:32
★スキップ様、かずりん様
>「染ちゃんなら『ジキルとハイド』できるかも?」......残念でした。確か彼はミュージカルにはあまり興味なかったはずです。幸四郎さんが言ってました。息子が小さい時に「ラ・マンチャの男」を観て「あれはお芝居じゃない」って言われて相当ショックだったって(笑)。それ以来、父上は「ミュージカルは松たか子、歌舞伎は染五郎」って言ってるんじゃなかったかしら(^^ゞ
それにしても染五郎は声が不安定なのが私には気になってます。二枚目でも高い声になる時に裏返る(あれは×)。特に女方の時の声の悪さがとっても気になる私です。あれはヘビースモーカーのせいじゃないかと嫌煙派の私はついつい煙草を敵視してしまいます。海老蔵も高い声が出せないし、ビジュアルがいい若手花形のふたりの声が不安定というのはちょっと不満なのです。
「鳴神」自体の感想アップはもう少しお待ちくださいね〜。明日からの3レンチャンに余力を残さないとダメなんで(^^ゞ
Posted by ぴかちゅう at 2007年05月24日 21:07
こんばんは、はじめまして。最近よく読ませていただいてます。染さんの「鳴神」とっても素敵でした。特に荒事の部分が本当に迫力があって、形もキレイに決まっていました。六方の美しさは見事です。

ところで、某染さんファンのサイトで染さんが女形の声を出せないのは3年前から声帯を痛めてて完治してないからだと書いてありました。タバコのせいだけではないみたいです。そのファンの方は染さんは喉を治す努力をすべきと諫言もしてもいました。染さんファンも心配しているんですね。
Posted by まいこ at 2007年05月24日 22:52
♪おまさぼうさま

「双面」のそのお話はおもしろい(~o~) 
なんだかヘンなイメージついちゃいましたね。
その方、どうしてそんなに笑ったのでしょう?デカかったから?!

一條大蔵譚は妙案です。すばらしい!
松竹座で観た仁左衛門さんの一條大蔵卿がすばらしかったので、
ぜひ仁左衛門さんにご指導いただいて、ふにゃりとキリリの
染ちゃんの大蔵卿を見せていただきたいです。松竹座か南座でね。
あ、おまさぼうさんは左でなくて右の字でしたね。
Posted by スキップ at 2007年05月24日 23:55
♪かずりんさま

贔屓目バリバリのレポを楽しんでくださってありがとうございます。
役者としての技量とか美しさとか色っぽさとかもさることながら、私は
染ちゃんの全力投球が大好きなんです。だからついつい力こぶ入って
応援しちゃってます(笑)。

染ちゃんの歌は鼻歌くらいしか聴いたことないのですが(「不二才」の時)、
パパはミュージカル俳優でもある訳ですし、やがて血が騒いでくるのでは・・
と、まぁ、期待しておきましょう。
Posted by スキップ at 2007年05月25日 00:03
♪ぴかちゅうさま

そうそう、その「ラ・マンチャ」の話はこの前、チャップリンのお孫さんとの
対談の時も染ちゃん自ら話してらっしゃいました。お芝居=歌舞伎だけと
思っていたって。いや〜、でもパパがあれですし、たか子ちゃんもそれ
ですし、染ちゃんもやがて血が騒ぐのでは?

次にコメントいただいたまいこさんも書いていらっしゃいますが、
染ちゃんは声帯を痛めたことがあると聞いています。でもそれも
しっかり治してベストの状態で板に乗るのがプロというものですよね。
妹のたか子ちゃんはあんなに驚異のノドを持っているのにね〜。

3連チャンですか。相変わらずお忙しいですね。お疲れが出ませんように。
「鳴神」も「俳優祭」も、ぴかちゅうさんのご感想を楽しみにしています。
Posted by スキップ at 2007年05月25日 00:13
♪まいこさま

はじめまして。ようこそいらしてくださいました。

私のまわりにも熱烈な染ちゃんフリークがたくさんいます(『朧の森』
29回観た、とか)ので、声のことは皆さんとても心配しています。
“完治していない”が真実なら、本当に一度思い切ってお休みして
しっかり治していただきたいとも思うし、その間舞台の染ちゃんと
会えなくなるのは寂しいし・・・困ったなぁ。
Posted by スキップ at 2007年05月25日 00:25
スキップさん、こんばんは(^^)!

染ちゃんの鳴神上人は実物の彼以上に舞台で大きく見えました。
この役としてはそれだけで挑戦した甲斐が合ったし成功かな、と思います(^^)。

ビジュアルも年齢を重ねることに濃い⇒すっきり〜と変化していくようで(笑)、私の好きな和風顔の役者さんになっていただえるとより嬉しい〜
なんちゃって(爆)。
Posted by 真聖 at 2007年05月26日 00:38
♪真聖さま

こんばんは。
染五郎さんは小顔で色白でスラリとしているので“線が細い”という印象を
持たれることが多いようですが、これから歌舞伎十八番にもどんどん挑戦して
いただいて、体型はそのまま、新しいタイプの立役となっていただきたいです。

ちょうど幸四郎パパと吉右衛門おじさんを足して2で割ったようなステキな中年(!)
になるのでは?
Posted by スキップ at 2007年05月27日 02:04
>幸四郎パパと吉右衛門おじさんを足して2で割ったようなステキな中年......!
ただこの二人と決定的に違うのは美しい系の女方もずっとできそうということですよね。お母さんの方の遺伝なんでしょうか。だから5月と9月は荒事の立役から女方まで幅広いお役がついて大奮闘してもらえるのが嬉しいです。ただし、それが喉に負担になっていないかがちょっと心配。
ようやく書いた感想をTBさせていただきましたm(_ _)m
Posted by ぴかちゅう at 2007年06月01日 02:30
♪ぴかちゅうさま

トラックバックありがとうございました。
お美しいお母様の遺伝子が息づいていることは、妹さんを見ても明らかですね。

ところで、今年の9月、幸四郎パパはパルコ劇場で「シェイクスピア・ソナタ」に
ご出演とか。秀山祭、どうなるのでしょうね。
Posted by スキップ「 at 2007年06月02日 00:31
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