2007年10月10日

肌の色でお嫌いにならないでください

venice2.jpgvenice4.jpg英国ロイヤル・シェイクスピア・カンパニーの気鋭の演出家 グレゴリー・ドーラン演出によるシェイクスピア劇。翻訳も河合祥一郎さんで、蜷川幸雄演出-松岡和子さん訳に慣れた耳目にはかなり新鮮でした。

「ヴェニスの商人」
10月6日(土) 6:00pm 兵庫県立芸術文化センター中ホール 1階O列センター



作: ウィリアム・シェイクスピア 
演出: グレゴリー・ドーラン 翻訳:河合祥一郎 
出演: シャイロック 市村正親/バサーニオ 藤原竜也/ポーシャ 寺島しのぶ/
     ネリッサ 佐藤仁美/アントーニオ 西岡徳馬 ほか


IMG_2757.jpgチケットもぎりの人からクローク係に至るまで、彩り鮮やかな衣装を身に纏い、仮面をつけて派手にドレスアップした人々が行き交うロビーはまるでカーニバルに迷い込んだよう。楽隊の演奏が始まると、立っていた木までが踊りだしてムートも高まります。その人たちがそのまま客席通路を通って幕のない舞台に上がり、仮面舞踏会の夜から物語は始まりました。

ストーリーは、“ヴェニスの商人”アントーニオが、友人バサーニオの保証人となりユダヤ人の金貸しシャイロックからお金を借り、期限までに返済できなければ自分の肉1ポンドを与えるという契約を結んだものの、所有の船が沈没したため返済できなくなり肉1ポンドをめぐる裁判となるが、バサーニオの妻ポーシャの機転により裁判に勝利するという有名な戯曲です。

が、

観ている間にかなりつらくなる。
キリスト教徒とユダヤ人の深い溝は、多分日本人である私には一生理解できないものなのだろうけれど、この物語は差別する側=キリスト教徒、される側=ユダヤ人という側面ばかりでなく、人種、貧富の差、身体障害などマイノリティへの差別がおおっぴらに存在する日常が生々しく描かれていて、連綿と続く歴史の中で、人間は果てることのない争いや差別を繰り返してきたことが感じられ、暗澹たる気持ちになります。「この話は『差別』を描いたのではなく、『差別とは何なのか』を描いた作品だ」とドーランは語っているのですが。

もう一つ、ドーランの解釈で注目すべき点は、アントーニオとバサーニオの関係において、男同士の友情を超えた“愛情”を感じさせていることです。これがこの後のストーリー展開をとても説得力のあるものにしているように思えます。甘えるように借金を申し込むバサーニオに対して、アントーニオは「その望みをきいてくれるかどうかと疑われることは、借金を申し込まれることより私を苦しめる」と応えます。まるで愛の告白のよう。西岡徳馬のアントーニオが、余裕たっぷりの大人の男の中にバサーニオへの隠し切れぬ想いを滲ませて魅力的。

これがアントーニオの片思いかというとそうでもなく、窮地に陥ったアントーニオから「最後にただひと目会いたい」という手紙を受け取り、涙して駆けつける、ポーシャから贈られた結婚指輪を「あの人にやってくれ」とアントーニオに請われてあっさり差し出してしまう、など、バサーニオにとってもアントーニオがかけがえのない存在であることが印象づけられています。

藤原竜也のバサーニオは、あんな顔、あんな姿態で甘えられたら、アントーニオでなくてもポーシャでなくても、お金なんてどんどんあげちゃう、っていうくらいかわいらしく甘え上手の好青年。裁判の場面などでその他大勢の1人として舞台上にいたりするのですが、こんな竜也くんを見るのも初めてでした。さらには、ポーシャの求婚者となってアフロヘアの黒人やギリシャ人の老人をコミカルに演じてみせ、また階段をひとつ上がった感じ。数多のスターひしめく演劇界の中にあって、間違いなく神様から天賦の才を与えられた一人だと思います。
「肌の色でお嫌いにならないでください」は、モロッコ人の求婚者として黒塗りで登場した竜也くんの第一声。コミカルなシーンですが、こんなところにもドーランのメッセージが。

いつもの目いっぱい頑張ってます感が薄らいで、柔らかで軽やかな雰囲気のポーシャ 寺島しのぶ、その侍女でキリッとした中にもかわいらしいメリッサ 佐藤仁美はともに適役でとても好感が持てます。ポーシャの上品で美しいドレスに代表される小峰リリーさんの衣装も光っていました。

そして、市村正親のシャイロック。
陰影を帯びた表情に怒りと悲しみを湛えた眼。静かな口調が却ってシャイロックの孤独感を際立たせ、出番が抜きん出て多い訳でも派手なパフォーマンスがある訳でもないのに芝居全体を支配しているような存在感は、見事としか言いようがありません。シャイロックは元より正義の側に立つ人間ではないけれど、娘に去られ、全財産を没収され、改宗まで命じられる理不尽さが痛いほど観ている者に伝わってきます。打って変わってカーテンコールでのエンターティナーぶりはとてもチャーミング。最後まで客席を楽しませてくれたのでした。


輝けるもの必ずしも黄金にあらずのごくらく地獄度 わーい(嬉しい顔) ふらふら (total 254 わーい(嬉しい顔) vs 255 ふらふら)
ニックネーム スキップ at 01:38| Comment(8) | TrackBack(2) | 演劇・ミュージカル
この記事へのコメント
スキップさんのレポをドキドキしながら拝見しました。
私も東京公演を観ましたが、独創的な表現や美術も
印象的でした。

以前、“こどものためのシェイクスピア”を観た時も、
シャイロック側目線の演出があったので、その点では
今回版に通じると思います。
ただ、その時以上に、宗教観・価値観の違いを明確に
より強く打ち出していたと思います。

そして、アントーニオとヴァサーニオの関係性。
西岡&藤原の両氏の様子には、友情を超えた親密さが
感じられて、かなりドキドキあれこれ妄想しちゃいま
した。
(^m^)

寺島@ポーシャのオキャンで明るい様子に新たな魅力
を感じたのは、私も同様です♪

こうして書き出すとアレコレが思い出されて…。
私も感想アップしなくっちゃ!と思いました。
p(^^)q
スキップさんとは、ひーはーもですが、作品について
色々お話ししてみたいなぁと改めて感じました。
そんな機会が実現しますこと、楽しみにしています♪
Posted by midori at 2007年10月12日 14:23
スキップさん、こんばんは!
私も東京公演をみました。
・・・私にはとても重くて、後味の悪いお話で、大好きな市村さんの舞台なのに、
一度しか観ませんでした。
でも、受け取る側の経験値や器の大きさで、
見えてくるものが大きく違う舞台だったのかなあ、と今は思います。
スキップさんの感想を読ませていただいて、更にそう思いました。
私にはちょっと早かったかも?(笑) 
細かい部分はとっても楽しめた舞台でしたので、
またいつかチャンスがあれば、違うスタンスで観てみたいな、と思います。
でも、やっぱり市村さん、見事ですよね!!
Posted by 恭穂 at 2007年10月12日 21:15
♪midoriさま

このところシェイクスピアといえば蜷川さん、みたいな感じでしたので(笑)、
ドーラン演出は視点も衣装や装置も新鮮で興味深かったです。
それに、あのアントーニオとバサーニオの何とも言えない雰囲気。
あれを見せつけられて妻のポーシャはどう感じるのかしらと
余計な勘ぐりをしちゃうくらいでした(笑)。

midoriさんのレビューを読ませていただくのを楽しみにしています。
それにもちろん、お目にかかって直接いろんなお話をお伺いできる
機会を、ほんとうに楽しみにしています!
Posted by スキップ at 2007年10月13日 05:40
♪恭穂さま

差別や異なった宗教観などの描き方がとてもリアルでしたので、
竜也くんの求婚の場面以外は、私も眉間にシワ寄せて観ていた
と思います(笑)。確かに後味悪い内容のお芝居でしたね。
ただ、随所にこれまでとは違った演出や解釈が見られて、
芝居心をくすぐられる舞台だと感じました。

市村さんは本当にステキ。
どんな役をお演りになっても市村さんであって市村さんでなく、
そこにいるのはまさしくシャイロックでした。<←これ、
「スウィーニー・トッドの時にも書いてます。“まさしく
スウィーニー”って(爆)>
Posted by スキップ at 2007年10月13日 05:53
スキップさま

コメント有難うございました。
「『差別とは何なのか』を描いた作品」ですか、なるほど。一度しか観れなかったのですが、もう一度その解釈を踏まえて観たいなと思ってしまいました。

竜也さんの魅力でおじさまもお姉さまも陥落(笑)しかし、今回はびっくりさせてもらいました。律儀にこなしてて高感度さらにupです♪

市村さんは素晴らしかったですね。控えめであるのに印象的。演劇界の宝ですね。
Posted by Franny at 2007年10月13日 18:25
東京公演千穐楽に観た感想をTBさせていただきましたm(_ _)mスキップさんのお写真の方がカーニバルの女装のドレスのスリットから網タイツのガーター部分が見えてセクシー!(私の方はそこまで写っていません(T-T))
今回のグレゴリー・ドーラン版の一番はアントーニオとバッサーニオの関係をしっかり愛人関係にしてもらったことで、重苦しい悲劇的要素と喜劇的要素のバランスが取れたように思えました。それもアントーニオの方が純愛モードで、バッサーニオは金持ちの女に惚れられたら乗り換えてしまうわけですからその愛情はちょっと軽いかな(^^ゞ
今までとってもいい子ちゃんにしか思えなかったポーシャがやきもちを焼きながら頑張っている女に見えてきてとても可愛く思えました。バッサーニオを取り合うのが年上の男と女ってやっぱり喜劇的です。愛する者を失うというシャイロックとアントーニオの共通性にも思いが至るとジワーン。シェイクスピア作品って演出者によっていろんな解釈をこめられるので、こんなに長く世界中で上演されるんだなぁと痛感しました。
Posted by ぴかちゅう at 2007年10月13日 23:50
♪Frannyさま

こちらこそありがとうございます。
「2人の求婚者はバサーニオの変装というのがドーランの解釈」という
日経新聞の劇評を読んでいませんでしたので、Frannyさんのところで
読ませていただいて「なっるほどなぁ〜」と膝をたたく思いでした。

藤原竜也くんは、キリキリ緊張感漂う演技ばかりでなくこんな軽い
感じの雰囲気も十分出せるようになって、ますます幅が広がり、
今度はどんな役を見せてもらえるのだろうって楽しみですね。
(あ、次は「身毒丸」に決まっていましたね。)
Posted by スキップ at 2007年10月14日 08:45
♪ぴかちゅうさま

ぴかちゅうさんのとても説得力あるすばらしい劇評、楽しみに
読ませていただきました。
アントーニオとバサーニオの関係もそうですが、ポーシャの描き方も、
確かにこれまで観たものとは少しニュアンスが違っていましたね。
そこを寺島しのぶさんが上手く汲み取って演じられて、実感のある
ポーシャ像が出来上がったのでしょうね。

私はドーランが演出したものを観るのは初めてだったのですが、
シェイクスピアの他の戯曲もドーラン演出で観てみたいと思いました。
Posted by スキップ at 2007年10月14日 08:53
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